ライチョウの生態
ライチョウは、北半球の高緯度のツンドラ地域や中緯度の高山帯に生息しています。ライチョウの学名「Lagopus muta」の「Lagopus」は“長い毛をもったウサギのような足”を意味します。
氷河の南下とともにライチョウも南に分布を拡大しました。地球が暖かくなり氷河が縮小するとともにライチョウの分布も北へ縮小。一部が北に戻らずに標高の高い高山帯に残りました。それが日本の中部山岳やヨーロッパのアルプスにいるライチョウです。
日本のライチョウは一年を通して高山帯で生活します。厳冬期はそれより少し下の亜高山帯上部で生活します。
最新の遺伝子分析の結果では、日本のライチョウは大陸のライチョウから最終氷期の初め(7〜4万年前)にわかれたと考えられています。
ライチョウは一年の大半を高山帯ですごす唯一の鳥です。
春、繁殖期になると雄は高山帯になわばりをかまえます。雄たちはなわばり争いと雌の獲得に一生懸命です。
基本的にライチョウの雄は1羽の雌とつがう一夫一妻ですが、ある雄のなわばりに2羽の雌が入り一夫二妻になる例もあります。
ライチョウの巣は主に背の低いハイマツの中につくります。抱卵は雌のみが行います。その間、雄はなわばりを維持し、雌が巣から出てくると雄は雌のそばに寄り添います。ヒナが孵化すると雄はなわばりを解消します。子育ては雌のみが行い、9月半ばから10月初めくらいまで母子の群れは維持されます。
なわばりを解消した雄や繁殖に失敗した雌は、かなり隠蔽的になります。外界から見える羽毛は換羽しより環境に溶け込むような羽色になります。時々群れで見かけたり単独で見かけたりしますが母子の群れほど登山道に出てきてはくれません。冬になり高山帯が雪や氷の世界になるとライチョウたちは亜高山帯上部のオオシラビソやダケカンバの林で過ごします。
ライチョウは、キツネやテン、オコジョなど哺乳類やイヌワシ、クマタカなどの猛禽類に襲われながらも逞しく生きています。
そのような捕食者からうまく逃げるため、環境にうまく溶け込む戦略、季節によって外界から見える羽毛の色彩を変化させる戦略をとっています。
冬は白、春になると雄の上面は黒褐色、雌の上面は薄茶色や焦茶色等の斑模様、繁殖を終えて秋になると、雌雄とも一様に灰褐色の上面になります。
一方、体の中に畳み込まれる翼は色をかえる必要がないので白色のままです。
ライチョウはキジ科の鳥です。ニワトリも同じキジ科の鳥です。ニワトリと同じようにライチョウは植物が大好物です。もっぱらコケモモやガンコウランなど高山植物の芽・葉・花・実を食べます。冬も主にダケカンバの芽を食べます。
植物は繊維質の消化しにくいものが多く、また高山植物の多くには有毒物質含まれています。それら植物繊維の消化と毒物の解毒のため、ライチョウは腸内細菌の力をかりています。
生まれたばかりのヒナはそのような腸内細菌をもっていません。ではどのように腸内細菌を獲得するのでしょうか。実は成鳥がする糞にはいくつか種類があり、そのうちの一つに盲腸糞があります。この糞の中にはたくさんの腸内細菌が含まれています。生まれたばかりのヒナはお母さんがした盲腸糞を食べることが観察されており、これにより腸内細菌が獲得されるのではないかと考えられています。
ライチョウは砂浴びが大好きです。ライチョウが登山道やその脇などで一心不乱に砂浴びする光景を見かけたことはないでしょうか。
乾いた砂に窪地を作り、体をくねらせたり羽根で砂をまき散らすことで、羽の間などに入り込んだハジラミや寄生バエなどを取り除きます。
そのため、ライチョウがいるところには彼らが砂浴びした跡をよく見かけます。ライチョウが砂浴びをした後にできる窪みの中には、糞や羽毛が残されていることもあります。砂浴び跡を見つけたらライチョウを見かけなくともここにはライチョウがいるんだなというサインになります。